結婚式の祝辞にみる与え合う交渉

今日はいつものような交渉の説明ではなく、エッセイです。

先日、後輩の結婚式に出席しました。
彼が司法修習生のときに私が弁護士会が指定する弁護士実務の指導担当に就いていた縁で、彼はそのまま同じ事務所に就職しました。私とは師匠と弟子のような関係がいまも続いています。
しかも、新婦も同じ事務所の事務員で、私とも仲がよかったということもあり、この度、乾杯のあいさつを依頼されました。せっかくなので、普段の交渉の話を挨拶でも盛り込めないかと考えました。
夫婦間の交渉というものについて、相談を受けてアドバイスする機会はとても多いです。トラブルになっている夫婦の多くは、「夫はこうあるべき」「妻はこうあるべき」という思想に囚われてしまって、目の前にいるパートナーの姿が見えているようで全く見えていません。自分の「こうあるべきメガネ」を通してみてしまっているので、本当のパートナーの姿が見えないのですね。
相談に対しては、パートナーの話をとにかくよく聞いて、「夫はこうあるべき」「妻はこうあるべき」というバイアスにとらわれずに、目の前にいるパートナーに、「何をしてあげたいか」という視点で考えるようにしましょうと伝えます。「何をして欲しい」ではなく、「何をしてあげたいか」が重要なんです。そう思えない相手と一生を共に過ごす意味はありませんよね。
本当にパートナーに何もしてあげたいと思えなくなったとき、その夫婦は終わりなのだと思います。

結婚式の挨拶で交渉の話をそのまま盛り込むのはどうやっても固すぎです。しかも、新郎新婦からのリクエストは、面白く笑える挨拶にして欲しい、固くしないで欲しい、というもの。

思案した結果、以下のような挨拶にしてみました。

ただいまご紹介にあずかりました、新郎のT先生と同じ職場の中嶋と申します。
甚だ僭越ではございますが、ご指名をいただきましたので、ひとことご挨拶をさせていただきます。

T先生、Nさん、ご両家ならびにご親族の皆様、この度はご結婚誠におめでとうございます。

T先生とわたしは、いまは同じ職場の先輩と後輩ですが、かつてはT先生が司法修習生で私がその指導担当という関係でした。いわば、師匠と弟子といった関係ともいえると思います。

そんな師匠から弟子のT先生に対して、弁護士の結婚についてお伝えしたいと思います。

弁護士は正義を実現する素晴らしい仕事です。
夫婦生活における正義、それは、いうまでもなく伴侶への愛です。常に、Nさんへ愛する気持ちを伝え、なにをしてあげたいか思い浮かべてください。
これからの夫婦生活は、きっと毎日が驚きと発見と喜びの連続でしょう。
明日、今日よりも好きになれる、溢れる気持ちも止まらないはずです。
いつもどんなときも、Nさんへの感謝を忘れないでください。
どんなときも、どんなときも、T先生らしく、好きなものは好きと、言える気持ちを抱きしめていてください。
いつもNさんの右の手のひらを、T先生の左の手のひらで、そっと包んでいくそれだけで、ただ愛を感じるはずです。

T先生もNさんも、自分の意思をはっきりと持っている、とても芯の強い方です。
それだけに、ときには衝突することもあるでしょう。
でも、涙の数だけ強くなれます。まるでアスファルトに咲く花のように。

少し前に、お二人と食事をした際に、Nさんは、夫を、いつも立てて、影ながら支えるような、そんな妻になりたいと言っていました。
そんな謙虚なことは言わずに、T先生を尻に敷いて、そして骨抜きにしましょう。
理想は、Nさんがいないと何もできないような夫にすることです。
T先生はNさんがいなくても、何もできないわけじゃないというかもしれません。でもきっと、いつのまにか、やかんを火にかけたけど紅茶のありかもわからない、ようになるのではないでしょうか。

二人がともに尊敬しあえる、お互いに何かをしてあげたいと思える関係でいましょう。春の桜も、夏の海も、秋の紅葉も、冬の雪も、あなたと見たい、あなたといたい、と思えるような、夫婦を目指してもらえればと思います。それでは、皆さま、乾杯の御唱和をお願いいたします。ご両家の益々のご繁栄と新郎新婦の末永いご幸福を祈念致しまして、 乾杯!

いかんせん曲が少し古かったのか、半数くらいの方は気づいていないようでした 笑

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コメント

    • チビ
    • 2019年 7月 23日

    私は、小学生の時、親戚の結婚式に一度だけ出席しました。教会でした。美男美女でおとぎ話みたいだった記憶があります。おじいさんとおばあさんが、お互いに労りあって散歩している、そんな夫婦にあこがれます。私はもう無理だけど、先生、そんな夫婦になって下さい。

      • 中嶋俊明
      • 2019年 7月 25日

      >チビさん
      夫婦という間柄だけではなく、友達同士でも、親子でも、何かつながりをもって生きていきたいですね。

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