くつろげるソファが欲しい夫
今回の相談は、ソファでゆっくりくつろぎたいという夫と、それに反対する奥様の話です。これはソファだけではなく、いろいろな家具に共通することかもしれません。
近々、新居に夫婦で引っ越す予定ですが、夫が、リビングにソファを置きたいと言って譲りません。新居のリビングは狭いので、テーブルとイスに加えてソファまで置くスペースがほとんどありません。掃除もしにくいですし、夫の性格を考えると、ソファを置いたとたん、部屋にいるときはずっとソファで寝転がり、夜もソファでそのまま寝落ちしかねません。姿勢も悪くなり、夫も疲れがとれないと思います。でも、夫は家にいるときくらいソファでゆっくりくつろぎたいと言って譲りません。どうしたら夫を説得できるでしょうか。
前回までのおさらい
まず前回までのおさらいからスタートです。交渉は3つのステップ、①自分の目標は何か、②相手は何を考えているか、③相手と「何を」「どう」与え合うか、という3点で確認していきます。
①「自分の目標」とは、「交渉前には持っていなかったもので、交渉後に持っていたいもの」のことです。交渉を進めるときに、いつも自分が何のために交渉をしているのかをきちんと意識することで、無意味な交渉を避けなければいけません。
②「相手は何を考えているか」では、相手が何を考え、何を交渉の目標に置き、何を重要とみているのかを考えます。相手のことを知るための一番大切で一番シンプルな方法は、(ⅰ)相手の話をよく聞き、(ⅱ)相手に適切な質問をする、このふたつだけです。相手の話をじっくり忍耐強く聞きましょう。8割は相手の話を聞くことに割いて、自分の話は2割以下とどめてください。
話を聞くときにも、質問をするときにも、自分の一番大事な人に接するときと同じように、常に敬意を払う姿勢を忘れてはいけません。時には感情的になってしまうときもありますが、その感情が交渉を前に進める原動力にもなります。感情を抑えるのではなく、うまく付き合うという姿勢が大事です。
感情のほかに厄介なものとして、その人特有のモノの見方(バイアス)を考慮する必要があります。人は複雑な生き物で、何でも合理的に冷静に考えて行動できるわけではありません。ときには、自分の身を守るために、嘘をつくこともあり、うそやごまかしにも直面しても大丈夫なように事前の準備を欠かしてはいけません。
③相手と「何を」「どう」与え合うかでは、前回、お願いを聞いてもらうためには、相手がハッピーになれるものを渡す必要があると説明しました。何が相手のハッピーになるものかは相手しだいですが、その際にはあなたのお願いがヒントになるということでした。今回はこのへんをもう少し深掘りしたいと思います。
与えあうということはギブアンドテイクではない
彼にお願いを聞いてもらうためには、あなたも彼に何かを与えることが大事です。しかしこれは、彼に何か与えない限り彼があなたのお願いを聞いてくれないということではありません。それではただのギブアンドテイクですし、見方によってはとてもドライな関係です。私がいう彼とあなたの与えあう関係はそういうドライな関係ではありません。
あなたが自分から進んで相手をハッピーにしようとすれば、相手はあなたのお願いを叶えたことで自分もハッピーになったと感じることが出来ます。そうすると、今度は彼があなたにお願いをするときも、あなたも同時にハッピーにしようとしてくれる可能性が高まります。こうして、何かをお願いするときに自分のことばかり考えずに、相手のこともハッピーにしようという輪が広がることが、与えあう交渉のいちばん大事な部分なのです。
あなたが何かをお願いするとき、同時に彼をハッピーにもしようと考え、彼があなたに何かをお願いするときに、同時に彼があなたもハッピーにしようとする、そういう双方向的な心の在り方が、繊細でときには不合理な方向にも流れがちな人間関係の問題にも解決の方法を教えてくれるということです。
理想論だという声も聞こえてきそうですが、親子の関係ではそういうことって普通にありますよね。そういう関係性をもう少し広げてみるということでもあります。
与える「何か」は、お金のモノサシで考えない
では、相手をハッピーにするものとは何でしょうか。前回、あなたのお願いを叶えることが、同時に彼に不満を解消することにもつながることがあるという話をしました。その場合は、あなたのお願いを叶えることそれ自体が、彼をハッピーにする贈りものになります。
ですが、すべての場合にそれが当てはまるわけではありません。
彼に与える「何か」を考えるとき、私たちは自分が叶えてほしいものと同じくらいの価値、それも金銭的な意味での同じくらいの価値の何かを探しがちです。
しかし、このようにお金のモノサシで彼に与えるものを選んではいけません。人はお金には敏感に反応しますので、お金の問題を持ち出した途端、トラブルが起きる可能性はとても高まります。たとえそれが公平のように見えてもです。
お金のかかることをされると、与えられた側は恐縮してしまいます。施しをうけたような気分になり、なんだか居心地もよくありません。これは近しい間柄であればあるほどそう感じます。少なくとも、近しい間柄では、このようなお金の負担を伴うお返しは好ましくなさそうです。
私もそうですが、誰でも、人から認められ大事にされたいという欲求があります。マズローの5段階の欲求は有名な話ですが、人は愛情や信頼を殊の外欲しています。
ですから、こういった金銭的なモノサシではなく、名誉や尊重、愛情や信頼などの無形物を、彼がハッピーになれる贈り物として与えることを考えましょう。極端なことをいえば「ありがとう」の一言こそが、彼が求めていた彼を最も喜ばせるプレゼントかもしれません。
大事なことは、想像力と創造力
このように、与える「何か」は、目に見えるものだけとは限りません。彼をハッピーにすることができて、あなたがアンハッピーでなければ何でもいいのです。彼のことを知ろうとするその行為自体が、彼をハッピーにするプレゼントということだっていえます。
彼をハッピーにするには何がよいか、想像力を働かせましょう。目の前になければあなたがそのばで創り出せばいいんです。想像力と創造力、この二つがあれば、もう大丈夫です。
今回の相談
それでは、今回の相談に戻ります。
あなたの交渉の目標、つまり夫にお願いしたいことは、は夫にソファを置くことを諦めさせ、使い勝手の良いリビングにしたいということでしょう。
では、彼の目標はというと、言葉の表面上はソファをリビングにおきたいということですが、「家にいるときくらいソファでゆっくりくつろぎたい」という発言は見逃せません。夫は、ソファにこだわっているのではなく、いまの家ではくつろげないので、くつろげる空間が欲しいと言っているのかもしれません。夫の話をよく聞いて、夫に質問をして確かめましょう。
さて、そこまでわかったうえで、あなたがソファをリビングに置くことを諦めてもらうように夫にお願いするためには、あなたも夫にお返しをあげないといけません。夫は、家でくつろげる空間を欲しているようなので、そういう空間を別の形で作ることがまず考えられます。それは夫がリラックス物でも良いかもしれませんし、夫がくつろげない理由があなたの夫に対する態度にあるのであれば、あなたが夫に信頼と愛情を示すなどして、リラックスできる雰囲気をつくることでもよいかもしれません。夫がハッピーになれるのであれば何でもよいのです。それができれば、夫はソファのことなど言わなくなるかもしれません。
今日はここまで。あまり更新できていませんが、原則は火曜日更新です。コメントもよろしくお願いします。
Photo by Joe Wolf
Illust by hyoin min、Kotaro Machiyama
コミュニケーションについて、最近勉強していて、以下の3ステップがわかりやすく、面白かったです!
「交渉は3つのステップ、①自分の目標は何か、②相手は何を考えているか、③相手と「何を」「どう」与え合うか」
③の与え合うという点も、単純にGIVE&TAKEというドライな関係ではない。という点が、確かに。と感じました。
また、①、②について、自分のニーズ⇒相手のニーズという流れで考えることが心理的にも良いなと思っています。
「想像力と創造力」という言葉が今までもよくでていると思いますが、どのように考えているか、特化した記事も読みたいです!
おまけになりますが、コミュニケーションの本で今一番はまっている本を紹介します。
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法 新版 』
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著)
対角線のITマンさん
いつもお読みくださりありがとうございます!
3ステップについては、できるだけシンプルにという発想から生み出したものなので、わかりやすいと言っていただけるととても嬉しいです(^^)
GIVE&TAKEってなんだかドライな気がしますよね。気持ちとしてはGIVE&GIVEでいたいですよね。
その説明をうまくするのが目下の課題です(;^_^A
「想像力と創造力」に特化した記事も近々書きますのでお楽しみにー。
PS
NVCは私も最近参考にさせてもらっています!
争わずにいかに解決するかは、人類普遍の問題ですね。