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見栄を張ってしまった代償
今回は,就活で見栄を張ってついウソを言ってしまった方からの相談です。ウソというには大げさですが,誰しも経験があることかもしれません。
私は就活中の大学生です。広告業界に興味があったのでそこを中心に就活をしていましたが、すべて落ちてしまいました。いまは、あまり希望していない建設業系の会社しか残っていない状況です。希望していなかったので、その業界は1社しか申し込みをしてなかったのですが、先日の面接の際に、何とか内定をもらおうと、業界への興味をアピールするために、つい複数の不動産系列の会社にも就活をしていると答えてしまいました。幸いその際にそれ以上その話題にはならなかったのですが、次の面接のときに詳しく聞かれたらどうしようと悩んでいます。
どうすればよいでしょうか。
前回までのおさらい
まず前回までのおさらいです。交渉は3つのステップ、①自分の目標は何か、②相手は何を考えているか、③相手と「何を」「どう」与え合うか、という3点で考えます。
①「自分の目標」は、「交渉前には持っていなかったもので、交渉後に持っていたいもの」のことです。交渉のゴールを設定することで、そのゴールに向かうために何をすればよいかがわかってきます。
②「相手は何を考えているか」では、相手が何を考え、何を交渉の目標に置き、何を重要とみているのかを探ります。相手のことがわからなければ、相手と与えあうことができないからです。相手を理解するためには、(ⅰ)相手の話をよく聞き、(ⅱ)相手に適切な質問をする、この2点を中心に行います。相手の話をじっくり、忍耐強く聞く。交渉のほとんどの情報は、ここで集まると言ってもよいくらいです。8割以上は相手の話を聞くことに費やしてください。
話を聞くときにも、質問をするときにも、常に敬意を払う姿勢を忘れてはいけません。交渉は相手があって初めて成立するのですから、失礼な態度をとらないようにしましょう。あなたも相手も、時には感情的になるときもありますが、感情は悪いものではないので、うまく付き合いながら交渉を進めることが大事です。
交渉を行う際には、感情のほかに、その人特有のモノの見方(バイアス)を考慮する必要があります。人は複雑な生き物で、何でも合理的に冷静に考えて行動できるわけではありません。ときには、自分の身を守るために、嘘をつくこともあります。今回は、交渉で嘘やごまかしに出くわした場合に、どう対処すればよいかを考えてみます。
嘘とごまかし
交渉の際に、自分を守るために嘘をついても良いかどうか、あなたはどう考えるでしょうか。
嘘にもいろいろなものがあります。あからさまに正しくないことを言う場合もあれば、形式的には正しくて、ただ相手を誤解させたりするような言い方をする場合もあります。
嘘をつく動機も、相手を気持ちよくさせるためにお世辞をいう場合もあれば、自分の利益や好条件を引き出すために嘘やごまかしを使う場合もあります。
誰だって、好んで嘘をつきたくはありません。誰もが、人と接するときには倫理的・道徳的でありたいと思います。それでも嘘をつく人は大勢います。ですから、交渉の際に、相手の嘘を信じてしまい、不利な交渉となってしまうことは避けなければいけません。
嘘やごまかしに、交渉の際にどのように対峙するべきか、この問題は、①相手の嘘やごまかしをどうすれば防ぐことができるか、②相手の言っていることが嘘やごまかしかどうかを、どうすれば見分けることが出来るのか、③相手の言っていることが嘘やごまかしだと分かったとして、どのように対応すればよいのか、④あなたが嘘をついたりごまかしたりしたいと思ったときに、どのように行動すべきか、の4つの場面にわけて考えることができます。
今回は、まず①相手の嘘やごまかしをどうすれば防ぐことが出来るか、を考えてみたいと思います。
嘘をつきたい、ごまかしたいと思うのはなぜか?
交渉の際には、ほとんどの人が、意識的な無意識的かにかかわらず、嘘をつきたい、ごまかしたいという衝動に駆られます。実際にはない事実をほのめかすことで、好条件を引き出したいという欲求に駆られるからです。
たとえば、あなたが家具の製造会社で、緩まない特殊なボルトを買おうとしているとします。この場合に、相手はあなたのライバル会社からもひそかにそのボルトの問い合わせがきており、あなたの会社よりも高い値段で買おうと言ってきているという嘘の事実を言うことが考えられます。その嘘を言うことで、あなたが提案している価格よりも高い価格でないと売れないと交渉してくるような場合です。この場合、ライバル会社から問い合わせも全くない場合は、相手方の言っていることは嘘になりますが、問い合わせだけはあったのであれば、値段をあいまいに伝えて、さもライバル会社が高く買おうとしているように表現する、ごまかしをしてくることも考えられます。
もちろん、嘘がばれれば、相手の評判や信用はガタ落ちになりますので、嘘をつくのはそういうリスクもあります。
しかし、そういうリスクも考えて行動できる人は、むしろ少数派です。物事を冷静に合理的に考えて行動できる人は実際にはほとんどいません。交渉はいろいろな要素が絡まって複雑な状況の中で行われますので、近視眼的になってつい嘘をついたりごまかしをしたりする人が実際にはとても多くいます。
そのような、嘘やごまかしをされないために、あなたは何をすればよいのでしょうか。
とにかく準備をする、準備ができなければできているようにみせる
これまで、交渉には準備が必要不可欠であることを繰り返し学んできました。準備をしているだけで交渉が成功するわけではありませんが、準備をしないと交渉は絶対に成功しません。
相手が嘘をついたりごまかしたりするのは、そういうことをするメリットがある(あると感じる)からです。ですが、あなたがしっかり準備をしているのであれば、嘘やごまかしが通用しないため、相手も嘘やごまかしをするメリットがなくなります。
ポイントは、あなたがしっかり交渉の準備ができていることを、相手に伝わるようにすることです。これは何も、「ライバル会社のことも調査している」などと直接的なことを伝える必要はありません。これでは逆に相手はあなたのことを無用に警戒してしまいます。
あなたが交渉の準備をしっかりしていることは、たとえば、交渉のスケジュールに乱れなく対応したり、論点を事前に詳細に整理しておいて議論の際にこちらから情報提供をしたり、常にメモを取り、別の議論の際に以前の議論のメモを活用するなど、交渉態度からあなたが隙のない準備万端な人物であるという印象を与えることが効果的です。
嘘やごまかしは今後見通せると印象付ける
あながたしっかりと準備ができておらず、そのことが相手にも知られてしまっている場合、相手から嘘をつかれたりごまかしをされたりするおそれがあります。
ですが、この場合でも、あなたは今準備ができていないだけで、情報を収集する能力があるため、今後嘘やごまかしを見破ることが出来るのであれば、それは相手にとっても脅威であり、嘘やごまかしをつかうメリットがなくなります。
ですので、あなたが準備が十分にできていないまま交渉に入ってしまった場合には、いま嘘やごまかしをしても、後でわかりますよ、というシグナルを相手に送りましょう。可能であれば、交渉をいったんストップして、「あなたのおっしゃっていることは正しいと思いますが、念のためこちらでもわかる範囲で改めて確認検討させてもらいます」など、事実の裏付けをとることを徹底している姿勢を相手に示すことができると効果的です。
直接的な質問をあえて避けて、間接的な質問をする
価格交渉の際に、価格に関することをダイレクトに質問しても、ごまかされるのがオチです。誰だって、不利になる情報を自分だけさらけ出したくはありません。
ですので、相手にとっての重要な情報は、周辺の事実についての間接的な質問を重ねるようにしましょう。たとえば、あなたがネジを相手から買うときの価格交渉で、あなたがネジの価格を決めるためにネジを作るコストがいくらかと質問をしても、相手としては、それを教えるとそのコストギリギリの値段をあなたが提案してくると分かりますので、まず教えてくれないでしょう。この場合、あなたは、ネジのコストではなく、ネジをどうやって作るのか、ネジの材料はどこで調達しているのか、ほかに誰に売っているのかなど、周辺事情から探るのが効果的です。
相手としても、周辺の事実であればあえて嘘をつこうという気になりにくいものです。直接的な質問ほど、相手の嘘やごまかしを招きやすいと思ってください。
なお、このブログの読者のみなさまであれば、質問の前に、まず相手の話をじっくり聞くことが大事だと知っていると思います。間接的な質問も、まずは相手の話をじっくりと聞いた後にするようにしましょう。
結局のところは信頼関係
以上のような対応で、相手が嘘やごまかしを行うことを、未然に防ぐことは、ある程度はできます。
ですが、このようにしないと嘘やごまかしを防げないということ自体の問題も、いまいちど考える必要があるのではないでしょうか。
人は誰でも、正直に誠実に生きていたいと思っています。その一方で、嘘をつく人がいる以上、自分だけが正直者でバカを見るのも避けたいという思いもあるでしょう。
ですが、このような理屈で嘘を正当化してしまうと、だれもが正直に生きたいと思っているのに、誰もが自分を守るために嘘をつくしかなくなってしまいます。
そもそも、嘘やごまかしは通用しないという態度をあなたが見せないといけないのは、あなたが相手から、バレなければ嘘やごまかしをしても良いと思われているからです。
そうすると、嘘やごまかしがバレるかどうかにかかわらず、相手が嘘やごまかしをしたくない人だとあなたが思われるようになれば、問題は解決できそうです。
そのための、おそらく唯一の方法は、「あなた自身が嘘をつかない」ということを、相手に約束し、相手との間に、嘘やごまかしをしない信頼関係を結ぶこと以外にはないのではないでしょうか。
あなたがこうした関係を結ぶことを望んでいることを、相手に伝えましょう。相手はすぐに信用しないかもしれません。ですが、交渉は与えあうことが一番大事です。このブログの第6話で考えたように、あなたの情報を率直に伝えること、お返ししたくなるような情報を与えることが大事です。つまり、与えあう交渉の基本にのっとり、相手に敬意を払い、相手との間に信頼関係を築くことがもっとも大事ということです。
最初の一歩をあなたが踏み出さない限り、疑心暗鬼の世界は続いてしまいます。難しい判断かもしれませんが、相手が信頼できる人物かどうかを試す前に、自分がまず信頼できる人物であることを示す必要があるということでしょう。
今回の相談の検討
さて、それでは今回の相談の検討に入ります。就活生をAさんとします。Aさんは、内定とりたいと焦って、本当はその会社しか申し込みをしていないのに、ほかの会社とも話が進んでいると、嘘を言ってしまい悩んでいます。
Aさんとしては、他とも話が進んでいると言うことで、Aさんが他社からも希望される能力の高い人であることや、Aさんがその業界にやる気のある人であることをアピールできるメリットがあると考えたのかもしれません。ですが、企業の面接担当からすると、それが嘘かどうかは、ある程度質問をすれば簡単にわかるでしょうから、デメリットのほうがはるかに大きい嘘ということになります。
Aさんができることは、聞かれた際に正直に嘘をついたことを言うことがまず考えられますが、それだと内定をもらえないリスクがあります。
そこで発想を転換して、言った嘘を現実にするということが考えられます。つまり、実際に同じ業界の会社に、いまから申し込みをするということです。もちろん、今からですから、話が進んでいるということまで言っていたとすれば、そこは間に合わないかもしれません。ですが、嘘をできるだけ現実に近づけることで、嘘を言ったことによって内定をもらえないリスクは、間違いなく減るでしょう。
結局は、信頼関係ですから、仮に面接の後で申し込んだことがばれたとしても、それだけ挽回しようという姿勢を見せることが出来れば、そこで新たな信頼関係を生み出すことができるかもしれません。つい出来心で嘘をついたりごまかしたりしてしまった場合、その後の努力でできることをするという姿勢が、新しい信頼関係を生み出すことにつながるのではないかと思います。
今日はここまで。更新は原則火曜日です。相談も引き続き募集しています。コメント欄もこの下のほうにありますので、よろしくお願いします。
iluust by Jieunius A
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